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書評『蔡温の言葉 琉球宰相が残した物語り』

書評『蔡温の言葉 琉球宰相が残した物語り』


さいおんの言葉

佐藤亮著 
ボーダーインク
定価1680円(税込)


 近世琉球で最も名高い政治家のひとり、蔡温の発言集。本書を初めて知った時、これは本土出身・在住の自分のような人間よりも、沖縄で生まれ、暮らす人にとって興味深い本なのだろうと思いました。沖縄で愛される郷土の偉人の言葉は、地元の方の琴線にこそふれるものなのではないかと。

 ところが、一度通読してふと目にした著者の略歴が自分と同じく本土で生まれ育った方であり、さらに家電やPCソフト等のマニュアル制作という仕事もされているのに興味を覚えました。

 マニュアルというのは、人がある操作を間違いなく行えるように導くもの。それには人が先入観によって無意識に行ってしまうことをあらかじめ予測し、それを回避するための工夫が求められるのでしょう。そのようなことを常日頃考えている方が、琉球の宰相の言葉に見いだしたものとは、本土の人間が沖縄=琉球に対して先入観によって無意識にしてしまっている判断に対して、何らかの補正を与えてくれるものなのではないか、と期待されるからです。

 本書は大きく二つの部分に分けられます。ひとつは「蔡温の言葉」というタイトルが示す通りの、蔡温が自らの政治についての考えを書き残した発言集から選ばれた言葉が並べられた部分で、これは昨今盛んに出版されている「偉人の名言集」というのに共通するスタイルによってまとめられています。

 そして、本書がユニークなのはそれとほぼ同じ位のページ数によって、蔡温が活躍した時代背景、琉球の政治的状況などを、蔡温自身による自伝も交えて解説している点であり、これはひとつには蔡温の存在をほとんど知らない、本土の人間を重要な読者として想定しているための構成であろうと思います。そしてまた、ひとりの人間の考えや言葉というのは、その人の置かれた環境と切り離して考えられないものである、ということを再確認する意義も込められているのでしょう。蔡温の自伝の中でも印象的な隠者との対話のエピソードが示すように、言葉の表面をなめて「分かったつもり」にならないように。

 当時の琉球は、薩摩島津氏の侵攻により江戸幕府に従属し、その一方で中国との関係も保持しつつ自立を保つという難しいバランスの中にありました。その中でいかにして蔡温が後世まで語り継がれるような琉球らしさ、独自性を持った政治をなし得たのか、それは先の読みにくい社会・国際情勢にあるといえる現代の読者にとって、おそらく一番の関心事だろうと思います。

 自分の国が大海と大国に囲まれた中の小国であるという自覚、しかしながらその土地は豊かな風水=地形的特色と自然資源に恵まれているゆえに、これまで人々が暮らして来れた事を理解しそれをどう生かして行くか?貿易国家から農業国家への政策転換、そのための河川や山林の整備などが、蔡温の業績として紹介されています。

 蔡温の活躍した時代、江戸幕府では徳川吉宗が享保の改革を進め、その下では時代劇等で名の知られる大岡越前守が腕を振るっていたと本書でも紹介されていますが、その政策がやはり農業の振興に重点を置いていたという点を琉球の政治と比較して考えるのも、本土の読者にとって興味深い点であるかも知れません。

 しかしながら、蔡温の言葉がとくに響くのは、政治を行うもの自身の振る舞い方について語られている部分だと思います。

『上の者が十の善を行えば、下の者は一の善を行う。上の者が一の悪を行えば、下の者は十の悪を行う。善を破るのは簡単で、善をなすのは難しいと、昔の人も言ったものだ。為政者はこのことに充分留意し、誰よりも努力して自己を律し、自己の悪弊を改めなければならない。そうすれば、国の風紀は改善し、社会は安定する。』(本書より)

 私がどのように生まれ育った人間で、どう考え行動したか?それがその政治と一体となっている蔡温の言葉を読んでいると、現代の政治家の語る「マニュフェスト」、選挙公約とはつまり、選挙という試験に合格するための方便でしかないのではないか?と思われてきます。それは受かってしまえばその後の働きが問われないということで政治不信の原因になっているだけでなく、社会全体に深刻な不信感を生み出しているのではないでしょうか。またマスメディアは何故そのような不信感を煽ることに終始しているのだろうか?とも思います。

『治国の大道を知る者は、国の置かれた状況を憂えたりはしない。ただ為政者が寛容でないことを憂えるのみである』(本書より)

 政治家が市民に何かをしてあげるという関係ではなく、一人一人が考え行動する事が真に自立した社会、その信頼関係を築いて行く、ということを彼の言動が示してくれています。そのような関係性が本土と沖縄の人々の間にも築いて行けるだろうか?と考える時、冒頭に述べたような本書の微妙な立ち位置に意義と可能性を感じます。

(海津研 美術・アニメーション作家 2011/7/30)

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