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書評『沖縄発――復帰運動から40年』

書評『沖縄発――復帰運動から40年』

沖縄発

川満信一著
世界書院
1365円(税込)
2010年9月


本書は沖縄の詩人・思想家である川満信一の評論集である。その所収時期はサブタイトルにもあるように、1969年から2008年のものまで幅広い。一人の思想遍歴が読みとれる本書を読みすすむにつれ、「幅広い」などという修辞がいかにも陳腐極まりないことであるかを思い知らされざるを得ないほど、その思想の拡散は苛烈である。

私が特に注目するのは、「国家とはなにか」という不断の問いを投げかけ続ける、沖縄においてありそうでない稀有な存在者としての思想である。本書では、著者がなぜにその問いを執拗にたてるのかの来歴が記され興味深い。

2008年に開催されたシンポジウム「来るべき自己決定権のために――沖縄・憲法・アジア」に向けて企画された文芸評論家・比屋根薫との対談(第二部 沖縄自立への立憲草案)で、比屋根から「反復帰論」について問いかけられた著者は、1968年という時代の「特別な意味」について語っている。この年は、後に沖縄県知事となる大田昌秀ら留学生が米国から戻り始め、また沖縄タイムスに籍を置いていた著者自身も労働運動をやって飛ばされていた鹿児島支局から戻ってきた、つまり《外側から沖縄を見ていた者が沖縄に戻ってきて、自分たちが外側から見ていた沖縄の状況とは何であったのかということを考え出す時期だった。そうすると民族にせよ、国家にせよ、一つの地域にせよ、問題が相対化された形で見やすくなっていることに気づく》そういう時期であった。

沖縄ではそれは三大選挙(琉球政府主席・立法院議員・那覇市長選挙)に燃え、一気に「祖国復帰」への運動として大きなうねりを展開していくタイミングでもあった。このとき著者は運動の渦中に向けて、「いま復帰運動が求めている国家とはなにか」と問いかける。「母なる祖国」=日本の自明性から出ない者たちにはその問いの意味すら理解できなかったとしても無理はない。《米軍政に対する抵抗は一生懸命やったが、自分たちが帰ろうとする国家が、もう一つの近代以降形成された国家であるということに意識の焦点を合わせることができなかった。》

そもそも琉球処分・廃藩置県によって包摂されるという、対ヤマト(日本)の関係こそ近代国民国家の産物であるならば、「祖国復帰」はひとつの国家=暴力装置から別の国家=暴力装置へと鞍替えするだけではないかという疑問。ここでせり上がる「祖国」という擬制の危険性について自覚的であること。

ここで注目したいのが、日本の沖縄差別を十分過ぎるほど骨身に感じているはずの著者が、それへの抵抗として民族意識を高揚させることの不可避と限界を察知し、いわば「民族」を括弧にいれている点だ。そうしなければ国家とは何かがみえなくなってしまうことを著者は危惧している。この問題意識が著者の自立論を沖縄のなかで特異にする。

《歴史的遺恨に基づく独立論は、要するに恨みつらみで「日本から離れてしまえ」という論にいきつかざるをえない。異質文化論に基づく独立論も、「おまえとはやっていけないから、三行半だ」という形になっていく。しかし日本国家の特殊性・歪みと近代国家の限界性を越え、自己存在および社会の異なるシステムを考えようとする自立・独立論は、単に日本vs沖縄という図式では処理できない問題を抱えてしまいます》(第一部 復帰運動の時代を考える)。

著者は宮古島久松という農漁村で育った。久松から宮古島の中核都市平良、平良から那覇へ、そして本土へと「上昇」する過程で、そのたびに新しい言語を習得せざるを得なかったという。それは常に差別と共に経験された。重層化されたその構造を通して、差別は少数派の近くでこそ起こることを著者は身に沁みて悟っただろう。

「反復帰論」は時代へのcritical(批判)としてあった。それほど当時の沖縄はcrisis(危機的状況)であったことを我々は本書から知らされる。「沖縄問題」の言説として、政治的リーダーが選ばれる過程で公然と発話された「沖縄差別」がある今、そのcrisisが顕わになっていないだろうか。「民族」のやっかいさを受けとめ、同時にそれをいったん括弧にいれ、「近代国家とは異なるシステム」を私は試行したい。そのためには、まず国家が何であるかを知ろうとしなければなにも始まらない。

(西脇尚人 2011/3/29)

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