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沖縄英文学研究の今

沖縄英文学研究の今

沖縄の英文学研究について情報発信しようとのねらいから、若手研究者が中心となって企画したシンポジウム「英文学研究ネットワークの再構築」が、1月29日沖縄キリスト教学院大学にて行われた。

特別講演第一は「アメリカをめぐる軌跡――沖縄のアメリカ研究について」と題し、山里勝巳(琉球大学教授)がパワーポイントを使って話を進めた。この中で山里教授は、ペリー来航時に通事(通訳)を務めた牧志朝忠の生涯を紹介した。その稀有な才能から琉球王国において異例の昇進を遂げた牧志であったが、庇護を受けた島津斉彬の死後その地位は脅かされ、薩摩派への粛清から投獄、拷問を受け(「牧志・恩河事件」)その後溺死した。山里教授は、琉球への忠誠を捨て、薩摩に加担した牧志の生涯を「琉球知識人の苦悩」と表現し、「ヤマト幻想と現実の落差は現代にも継続される状況ではないか」と問題提起した。

山里
山里勝巳(琉球大学教授

特別講演第二は、「〈速度〉のポリティクス――文学を再考するために」と題し、中村邦生(大東文化大学教授・小説家)が弁舌逞しく話しを展開した。中村教授は、絶えず自己点検・自己管理を強いられる「オーディット文化」に抵抗する様々なアート、文学作品を紹介した。「要約ができないことが魅力」と小島信夫を評し、フリオ・コルタサルの超短編「続いている公園」を「速さと遅さが癒着している」と絶賛した。また、移動している車窓の風景と座席で優雅に腰掛ける左右対称の夫人とのコントラストが印象的な絵画オーガスタ・エッグ「旅の道連れ」に速度をめぐるアイロニーを見出したうえで、「沖縄は遅さが速さをいかに撹乱するかによる」と時評的に話を展開させてた。

中村
中村邦生(大東文化大学教授・小説家)

後半のパネルディスカッションでは、若手研究者によるそれぞれの専門領域が紹介された。そのうち渡久山幸功(琉球大学非常勤講師)は、「ビリーフ・システム」というトラウマ理論からアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの短編「イーブリン」を読み解き、さらに現代沖縄の状況に展開させた。「ビリーフ・システム」とは日常的な些細な出来事を通し世界観を信じ込むこと。主人公である若い女性イーブリンはダブリンで希望を見出せない生活を送っている。そんな彼女にブエノスアイレスへの移住のチャンスが訪れるが、イーブリンはそれを断りアイルランドに残る決意をする。渡久山はそこにトラウマ記憶と結びついた「ビリーフ・システム」を見出し、その「精神的麻痺」は個人を超えてダブリン市民全体を包括するものであると指摘した。

さらに渡久山によれば、「ビリーフ・システム」は沖縄の植民地的状況にも当て嵌まるという。つまり、数世紀に及ぶ植民地体験は、沖縄の人々に自治を行うことを不可能であると「麻痺」させ、保護してくれる大国を無意識に呼び込んいる状況をつくっているといえないか。そのような状況を改善させるためにエンパワーメントが必要であるとした。

若手
パネルディスカッション

浜川
司会進行:浜川仁(沖縄キリスト教学院大学)

他には、本浜秀彦(沖縄キリスト教学院大学)が太平洋文学について、喜納育江(琉球大学)がアメリカ先住民文学を沖縄から読む試みを、山城新(琉球大学)が「サーフライディング」について、名嘉山リサ(国立沖縄工業高等専門学校)が映画「八月十五夜の茶屋」の沖縄の描き方についての批判を、浜川仁(沖縄キリスト教学院大学)がイギリスの初期ゴシック小説とロマン主義の詩について研究報告をした。



絶えず「沖縄」という主語を使うことを余儀なくされる言説空間があるとして、英文学研究を報告するという行為はなにを意味するのか。さらにそこに「ネットワークの再構築」を掲げることの切迫感は何に由来するのか。そのようなことを思いながら登壇者の話に聞き入った。登壇した沖縄の若手英文学研究者たちはそれぞれが「沖縄」についてそれぞれのポジショニングに苦心しながらも、英文学研究を「沖縄」につなげようと試みていた。その姿勢は評価されるべきだろう。

であるならば次の問いが生じる。「ネットワークの再構築」とは、誰と誰の、何と何の「ネットワーク」が「再構築」されるべきなのかという。まずは、並んで登壇した若手研究者のあいだで、次にそれらと先輩の研究者とのあいだに、次に「ヤマト」の研究者とのあいだに、次にフロアの参加者とのあいだに・・・というネットワークがひとまず想像される。それらはヒエラルカルでなく、一方向的でなく、そして〈速度〉に抗いながら試行されてほしい。

(西脇尚人)
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