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書評『現代沖縄の歴史経験 希望、あるいは未決性について』

書評『現代沖縄の歴史経験 希望、あるいは未決性について』

書評用P「現代沖縄の歴史経験」

冨山一郎、森宣雄(編著)青弓社(2010/07 出版)
424p / 21cm / A5判 価格:¥3,570(税込)

金城正樹による第9章〈暴力と歓喜 ――フランツ・ファノンの叙述と目取真俊『虹の鳥』から〉では、歓喜する暴力が称揚され、それと対比させるために「政治的正しさ」(political correctness)が批判されることにより、現実の沖縄の政治状況を批判し得ている。

まず暴力について金城の定義をみよう。フランツ・ファノンは、アルジェリア民族解放戦線において、革命の任務を担っていたアルジェリア人の女性たちによるヴェールを使ったパフォーマンスに注目する。ヨーロッパ人から自己同定を強いられた(ふりをする)彼女たちは、ヴェールを脱ぎ、化粧をし、ヘアスタイルを整え、スカートをはき、婦人用のハンドバッグを持ち、ヨーロッパ人街の検閲を通過する。実際は、ピストルや爆弾を忍ばせているのだが。

しかしながら彼女たちは特別な訓練を受けた秘密諜報部員ではない点をファノンは強調する。自分の生命を危険に晒しながらの1回限りのパフォーマンスであるがゆえに、それは予測不可能な力を帯び始めると。思考することと行為することを同時にやってのける彼女たちに、ファノンは新たな社会を切り開く力を見出す。それを一言でいえば、「一回性の反復不可能な力」ということになる。

次に金城は目取真俊『虹の鳥』に暴力の定義を見出す。『虹の鳥』は21歳の主人公カツヤと周囲の不良グループが現出させる暴力が生々しい作品である。彼ら/彼女らの繰り出す暴力とそれを受け留めるカツヤの受動性について金城は鋭い考察をしているが、それよりも、カツヤの父親がよく話をしてくれたコザ暴動にカツヤがユートピアを求めている箇所を引用し、それを歓喜と表現している点に着目したい。

コザ暴動とは1970年12月20日夜、当時のコザ市で起きた群集の「暴動」だ。飲酒運転のアメリカ人が沖縄人をはねた。これより前の9月に、糸満市で泥酔したアメリカ兵が女性をひき殺し、軍裁判で無罪となった経緯があり、度重なる米軍支配の不平等性に怒りの沸点を越した群集が次々とアメリカ人の車に火をつけたという(40年を迎え琉球新報、沖縄タイムスではこの事件を検証する大きな特集を掲載記事している)。

そのときふだんから「思想やイデオロギーなど金にならん」とののしるカツヤの父親は「暴動」に参加した。彼は「反基地」を胸に秘めているわけでもないし、革新/保守といった党派性とも無縁の存在のはず。にもかかわらず「日頃は米軍基地の恩恵を受けているくせに、群衆に交じって米兵の車両をひっくり返し、火をつけて回った」ことを自慢する父親。その述懐を主人公のカツヤに語らせることによって、そのユートピア性が喚起・歓喜される。

「暴動」はカツヤの父親のようにイデオロギーに頓着しない人々も交じった群集によって惹き起こされた。金城は書く。「普段、政治的に対立しているはずの人々が、突然、街の表通りに集結し始め、意図せずしていっさいの党派は瓦解し、人々は祝祭のごとく歓声を上げ、荒れ狂い、大通りを占拠する。人の行為の前に、行為の原因として意志を認定する歴史解釈は、もはや完全に有効性を失う。「人の行為の前に、行為の原因として意志を認定する歴史解釈」とは、政治運動において信念や正義といった「政治的正しさ」(political correctness)に拘泥する態度を指す。これらの規範とコザ暴動の暴力と歓喜は対応関係をもたないと金城は指摘する。だからこそ、そのズレを問題にすべきではないかと。その上で、『虹の鳥』はこのズレを表面化させることを意図して書かれた作品であると評価する。

アルジェリア人女性にファノンが見出した「一回性の反復不可能な力」と、コザ暴動の祝祭空間のイメージは、現実の沖縄に生きるわたしになにを喚起させるだろうか。金城は、政治的正しさではなく、「『思想やイデオロギーなど金にならん』としか表現しようとしない人々の情動をも運動に巻き込んでいくような言葉の質」を問うている。これは沖縄の直近の政治状況に向けられた切実過ぎる問いというしかいいようのないアクチュアルな響きをもつ。まさしく「政治的正しさ」を主張する候補者と、その「正しさ」の外部を見ない同陣営の運動スタイルの結果は誰もが知っている通りなのだから。

(西脇尚人 2010/12/12)




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