criticalとは 早尾貴紀:緊急、原発震災関連
過日仙台在住の知人の早尾氏から「自治体が動こうとしないので自分たちで除染作業をすることを考えている。専門的なアドバイスをしてもらう人として矢ヶ崎氏を紹介してもらえないか?」という内容の電話をもらった。4月24日に配信したオルタナ・クール「福島原発事故 内部被曝について正確な情報を知ろう」を見てくれたという。私は矢ヶ崎氏の真の科学者としての人となりに感銘を受けていたので、その旨を伝え仲介した。
矢ヶ崎氏も快く応じてくれたらしく、その翌週早尾氏らは矢ヶ崎氏を招いて福島・宮城で講演並びに調査を行った。それを含んだ内容が「矢ケ崎講演報告/小学校懇談会/避難ネットワーク」という記事にまとめられている。早尾氏はこの記事で主に3点について論じている。矢ヶ崎氏の講演と調査についての批評、地元行政機関・教育機関への批判、そして我が子への眼差し。
まず、武田邦彦氏との対比において矢ヶ崎氏の真摯な態度を鋭く描写し、科学者とはなにかという問いを暗に提起している。精神的に不安な被災者ウケする武田氏よりも、軽々しく即効性のある助言を述べずひたすら内部被曝の危険性を説く矢ヶ崎氏への尊敬の念を抱く。
一人息子の在籍する小学校に対し、その矢ヶ崎氏から得た知見も含め、放射能の測定を促すものの、まったく拒絶される。それに対し、早尾氏はこう述べる。《この大規模汚染という事態を前にして、繰り返し強い要請がなければ自らは調べようともしないこの行政・学校・教員の姿勢や感覚にこそ、絶望的な思いを抱いてしまいます。放射能よりも、この人たちのほうがよほど怖い》。この行政・学校・教員の姿勢は翻って政府・東電・御用学者の姿勢と同期させられる。我々はそのような世界に生きているのだと。
我が子を避難させることについて、早尾氏は執拗な逡巡を隠さない。事故発生後京都へ避難させ、連休明けに仙台に戻したものの、新しい放射性物質は届き、学校は測定作業すらしようとしないなど予断を許さない状況において、遅くない答えを出さねばならない。ここで早尾氏は子どものレベルまで身をかがめ寄り添い、かつ親としての距離を保とうとする。
《子どもも小学生になれば、一人の社会人。自分で人間関係をつくって、自分で好きなことを選んで活動をしています。そこから子どもを引き剥がしてしまうことは、本当につらい。
かわいそうだけれども、彼にはまた自分で関係と活動を築く仕事をしてもらうことになるかもしれません。惰性だけでは生きていけないということを、この二ヶ月の避難生活でもう学んでいるはずなのですから、きっと大丈夫でしょう。》
早尾氏は間違いなく自らの少年時代を想起している。子どもは子どもなりに人間関係を構築している。それはその子どもが築き上げた大切なエモーションとイマジネーションの総体なのだ。そしてそれは彼なりの主体的な選択のはず。だからそれを大切にしてあげたい。ここまでの思いを持ちつつ、次の瞬間早尾氏は冷徹に我が子を、いや〈子と我〉を突き放す。《惰性では生きていけない》ことを学ぶべきだと。
小学生時代幾度の引越し・転向を繰り返しそのたびに築き上げた関係を壊され、また積み上げてきた経験をもつ私としては、あるいは数年前の来沖時にまだ小学生になる前の彼と友だちとなった私としては、なんとも胸に染み入る。
早尾氏は中東思想を主なフィールドとする研究者である。研究者が危機的状況で始めた運動はやはりcriticalである。
critical
【形容詞】
A1
【限定用法の形容詞】 (比較なし) 批評(家)の,評論の.
2
批判[批評]的な; 批評[鑑識]眼のある.
3
a
厳しく批判する,酷評する.
b
【叙述的用法の形容詞】 〔+前+(代)名〕〔…を〕厳しく批判して,〔…に〕難くせをつけて 〔of,about〕.
B1
(生死を分けるような)危機の,きわどい,危ない; 〈病状が〉峠にある,危篤の.
2
決定的な,重大な; 重要な.
3
【数・理】 (比較なし) 臨界の.
用例 the critical angle 臨界角.
the critical point [temperature] 臨界点[温度].
the critical state 臨界状態.
go critical 〈原子炉が〉臨界点に達する.
研究社 新英和中辞典より
http://ejje.weblio.jp/content/critical
(西脇尚人)
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